【組織論】組織のスピードを飛躍させる、アジャイル組織論

アジャイル

世の中には、色々な組織論が溢れており、現在もティール組織論やホラクラシー経営など日々新しい組織論が提唱されています。これらの組織論はどれも正論を述べており、理に適っています。一方、会社の規模やステージ、サービス/商品の単価や販売チャネル等によって最適な組織論は異なるので、色々な方法論を組み合わせて試行錯誤しながら最適な形にカスタマイズする必要があります。
今回は、会社の規模やステージに関係なくどの組織にも共通して重要な「スピード」に主眼を置いた組織論の“アジャイル”についてBCGの記事「Five Secrets to Scaling up Agile」に基づいてご紹介します。

そもそも”アジャイル”とは?
アジャイル(=Agile)は、「素早い」「俊敏な」「スピーディー」という意味ですが、元々はソフトウェア開発手法として提唱されました。ソフトウェアエンジニアは、日々大量のコードを書いており、DRY(Don’t Repeat Yourself:同じことを繰り返すな)YAGNI(You Ain’t Gonna Need It:本当に必要なものだけを創れ)といった考えに基づき如何に効率的に開発するかを常に考えています。その試行錯誤の中で生み出されたアジャイル開発と呼ばれる開発手法があります。アジャイル開発は「開発サイクルを細かく区切って複数回に分けてプロトタイプをリリースすることで、期間、コスト、リスクを最小限にする」ことを目的としています。従来のウォーターフォール型開発との主な違いは、以下の通りです。
・顧客にとって最高の製品を目指す(当初の要求仕様に従う≠最高の製品。最高の製品=試行錯誤の中で幾度も見直すなかで生まれる)
・製品開発に社内の関係部署のみならず顧客も巻き込みながら進める(分業型ではなく、協働型)
・短い反復の中で、繰り返しテストする(実装後に1度だけテストするのではなく細かく何度もテストする)


※NECソリューションイノベータより抜粋

“アジャイル”にすると何が良いのか?
アジャイルは単なる開発手法に留まらず、上手く活用すれば組織全体に多大なるインパクトをもたらします。
・生産性の劇的な向上
従来型のウォーターフォール開発は、ハードウェアエンジニアリングの為に提唱された方法です。これをソフトウェア開発に当てはめようとすると、顧客ニーズの変化が速く最初から全要件を定義することは難しい為、無理が生じます(顧客にとって最適な製品にならない)。ウォーターフォール型開発で進めたソフトウェア開発の9割以上が、予算/納期を超えてしまっていたそうです。そこで、アジャイル開発が提唱されました。社内各部門のみならず、顧客も巻き込みながら開発プロセスを高速で回すことで、生産効率を最大3倍まで引き上げることができようになりました。
・イノベーション創出効率向上
アジャイル開発では、新しいプロダクトのリリースを段階的に複数回に分けて行う為、新機能を搭載したプロトタイプを週次・月次のペースでリリース出来ます(ウォーターフォールでは四半期毎・年次)。その結果、某大手銀行の開発チームでは開発期間を50%削減した一方、1ドル当たりの付加価値額を50%改善することに成功した例もあるようです。新しい機能を、使っては試しというサイクルを各部門や顧客を巻き込みながら繰り返すうちに、新たなアイディアが生まれ、イノベーションを創出する環境が生まれやすくなります。
・従業員のエンゲージメント向上
部門横断で連携しながら開発する為、組織全体の仕事へのエンゲージメントが劇的に改善します。先述の銀行のケースでは、従業員アンケートのスコアが30%以上改善したそうです。
・欠陥率の低減
顧客と細かく擦合せを行い、プロトタイプをリリースする度に顧客チェックを行う為、欠陥率を大きく減らすことができます。


“アジャイル”5か条
アジャイルには様々なメリットが存在する一方、組織に浸透している企業は多くありません。なぜなら、アジャイルの方法論ばかりを形式的に取り入れている為だと思われます。アジャイルで大事なのは、考え方の本質を組織に浸透させ、徹底させることです。
・繰り返す(Iterative)
仮説検証を高速で繰り返すことにより、柔軟に方向性を変えたり、進捗の見える化/予測精度を上げることができます(完成品に近いものを創るのではなく、本当に必要なものだけを創ってチェックする)。
・検証する(Empirical)
アジャイルでは計画立案より、A/Bテストや顧客フィードバックのKPI測定などのプロダクト検証を重視することで、チームの軌道修正を図ることに注力します(ただ考えるよりも、手を動かしながら考える)。
・組織横断で進める(Cross-functional)
経営企画、営業、マーケ、開発、HRなど関連する部門から夫々人を出してチームを組成することにより、顧客、経営陣からのフィードバックを素早く反映できるようになります(機能別の縦割り組織にしない)。
・フォーカスする(Focused)
アジャイルでは、チームメンバーは基本的に複数のプロジェクトを兼任させません(優先順位を付けて本当にすべきことに集中する)。
・改善し続ける(Continuously Improving)
アジャイルではプロダクトの完成はありません。顧客ニーズが変わり続ける限り、常に開発をし続けることが重要です(自己満足で終わらず、顧客の価値を上げ続けることを常に考える)。


アジャイルな組織を創るためにはどうしたら良いのか?
1.経営トップから始めよう

実行する上で障害になりそうな組織的な課題とその対策、アジャイルの実施目的の組織内での浸透について経営トップが積極的にコミットすべきです。アジャイル変革は、会社の全部門/全社員を巻き込む為、経営層の強いリードが必要となります。
2. ”パイロット”を設けよう
組織がアジャイルに適応する為には、”飛行機のパイロット”にあたるプロダクト責任者(顧客と開発者の間を取り持つ役割)のような役割が重要になります。
3. 柔軟に対応しよう
アジャイルを浸透させるには、下図の通り1~2年の時間を要します。通常、導入期にトライアルプロジェクトを数回実施した後、アジャイルを広げるための”転換点”にぶつかります。よく起こる例でいうと、従来の人事評価制度では部門横断で編成されたチームの評価をできないという壁です。こうした問題が生じた際に重要なのが、アジャイルに合わせて諸制度などの体制を変更できるよう、経営陣がしっかりサポートする必要があります。


※BCG資料より抜粋
例えば、音楽配信サービスで急成長中のSpotifyのアジャイル対応例は以下の通りです:
・通常、部門横断チームを作ってアジャイルを取り入れようとする
・他方、spotifyではアジャイルなプロダクト開発を徹底する為、下図のような4つの組織で運用している
-Squad(分隊): プロダクト責任者を中心とした部門横断チーム
– Tribe(部族): 関連する複数のプロダクトSquadを集めたチーム
-Chapter(部門): 同じ専門性を有する人材を集めたチーム(一般に部門)
-Guild(ギルド): 誰でも参加可能な、同じ関心を持った人が集まったチーム


※BCG資料より抜粋

4. 正しいKPIを設定・測定せよ
アジャイルのゴールは、事業を改善することです。従って、アジャイルの成否の判定は、事業のパフォーマンスで測られるべきです。例えば、某企業では、クレジットカードの退会率を下げることが目的だったので、退会率が最も重要なKPIになります。他方、これだけでは何を改善すれば良いか不明確なので、退会率に影響するKPIソフトウェアの信頼性、セキュリティ等のKPIも測るべきです。
5. 絶対に止めない
アジャイルとは、継続的なカイゼン活動です。決して単発の企画ではありません。従い、アジャイルの文化自体を組織に取り込み・成功事例を共有して、アジャイルの火を絶やさない努力が必要となります。

以上、BCGの記事をご紹介して、アジャイル組織についてご説明させて戴きましたが如何でしたでしょうか?
多くの日本企業では、かつてチャンドラーが提示したような事業部制がいまも色濃く存在していて、縦割りの組織構造が根強く残っています。グローバル化の進展と共に組織の横通しが行われる様になったかというとそうでもなく、事業部ごとに各国に会社を設立したり縦割り組織のグローバル化が進んでいるのが実情です。
他方、外資系企業では、リージョナル/カントリーマネージャー等を配置し、アセアン地域、北米地域など地域軸でまとめて横軸を通しています。更にスタートアップでは、組織を超えて横軸を通す動きが生まれており、自社の技術をオープンソース化して公開し、企業組織という枠組みを超えて一つのエコシステムを築こうとしています。こうすることで、経営の柔軟性やスピードが上がり、経営環境が変化した際も外部の力を活かすことで迅速対応することが出来るようになります。このエコシステムを創る為には、出来るだけ情報を公開し、情報の非対称性を生まない仕組み創りが重要になります。
従って、今後は情報共有とオープン化を推し進めて、組織を超えた横軸連携に基づいたアジャイルな組織を構築することが益々重要になってきます。これを一気に始めることは難しいので、先ずは、営業/マーケティング/カスタマーサクセス等の近しい部署から連携を図ることをお勧めします。
その為には、部門間連携を推し進めるパイロット役(司令塔)が必要になりますが、その役割を果たすのに最適なのが最近米国で急発展を遂げているインサイドセールスです。インサイドセールスの詳しい説明は、「【組織の営業力を上げる】利益を増大させるインサイドセールスのメカニズム(リンク)」をご覧下さい。
皆さんの身近な所の小さな意識変化が大きなうねりを生み出します。今回はアジャイル組織論についてお伝えいたしましたが、Sales Hackerが何かのヒントやキッカケになれば幸いです。